人は、心理療法で変われるのか?
人は、心理療法で
変われるのか?
「カウンセリングに行けば、自分は変われますか?」
よく聞かれる質問です。
答えは「はい」でも「いいえ」でもなく——
「変わり方が、ある」です。
「私はもう変わらないのかな」と思いながら、それでもなにかを変えたくて、こうしてページを開いてくださっているのかもしれません。
カウンセリングや心理療法を受けると、人は本当に変わるのか。今日はその問いに、正直にお答えしたいと思います。
変わりにくいもの、変わりやすいもの
まず知っておいてほしいのは、「性格」と一口に言っても、生まれつきの気質と、経験によって育った部分とでは、変わりやすさがかなり違うということです。
| 変わるもの | 変化の可能性 |
|---|---|
| 音や光への敏感さ、感情の反応速度(気質) | 変わりにくい |
| 自己批判の強さ、対人パターン | 変わりやすい |
| 感情に飲み込まれにくさ、立て直し力 | かなり変わりやすい |
生まれつき心配性の人が「鈍感」になることは、正直難しい。でも、心配に飲み込まれている時間が短くなることは、十分に起こります。
「性格に振り回されにくくなる」——
これが、心理療法で起きることの実態に近いと思います。
具体的に、どんな変化が起きるの?
実際にカウンセリングを重ねると、こんな変化が少しずつ起きてきます。
毎朝、会社に行けなくなっていたAさん。最初は「自分が弱いから」と思っていましたが、カウンセリングの中で「怖いのは失敗ではなく、否定されること」と気づきました。それがわかってから、上司との関係が少しずつ違って見えてきた、と話してくれました。
「なぜかいつも同じ相手と揉める」と悩んでいたBさん。怒りを感じると即座に謝ってしまう、という自分のパターンに気づいたとき、「親の前でずっとそうしてきた」とつながりました。気づいた後は、少し立ち止まれるようになった、と言っていました。
どちらの例も、劇的に人格が変わったわけではありません。でも、自分の反応の「意味」がわかることで、選択肢が生まれた。それが変化の核心です。
エビデンスは何と言っているか
「気のせいでは?」と思われる方もいるかもしれません。でも、研究の結果はかなり明確です。
性格特性(ビッグファイブ)を指標にした複数の研究では、心理療法を受けた後、不安・抑うつへの傾きが低下し、誠実性や協調性が上昇することが確認されています。効果量は小〜中程度ですが、「変化しない」とは言えないレベルの一貫した結果です。
感情に「言葉」を与えること(affect labeling)が、脳の扁桃体の過剰反応を和らげることも示されています。「なんか苦しい」が「これは見捨てられる恐怖だ」と言語化できると、感情に飲み込まれにくくなる——これは感覚的な話ではなく、神経科学的な裏づけがあります。
「頭でわかる」と「腹でわかる」は別物
ただ、ひとつ正直に言わせてください。「気づいた」だけでは変わらないこともある、ということです。
たとえば「自分が回避的だとわかった」でも、それだけでは対人関係が変わらない。なぜなら、身体の反応や感情の記憶は、言葉の理解より深いところにあるからです。
サイコドラマでは、実際に「動く」「演じる」「他者の役割に入る」ことで、頭の外側にある体験として変化を起こします。言葉だけでは届かなかった場所に、身体ごと触れていく感じ、とでも言えばいいでしょうか。
もちろん、認知行動療法(CBT)のように言葉と行動実験で変化を起こす方法も、エビデンスが豊富です。アプローチはひとつではありません。大切なのは、あなたのテーマや感じ方に合った方法を選ぶことです。
それでも、変わることはできる
心理療法で変わるのは、一夜にして別人になることではありません。
傷つきやすさは残るけど、立て直しが少し早くなる。
心配性は残るけど、心配の波に乗っている時間が短くなる。
サイコドラマの言葉を借りれば、「ある役割しか演じられなかった人が、レパートリーを広げていく」プロセスです。性格がなくなるのではなく、それ以外の自分も使えるようになる。
変わることへの動機と、安全な関係があれば——人は、確かに変わっていきます。ゆっくりと、でも確実に。
「変わりたい」という気持ちを
一緒に持たせてください
まず話してみることから、はじめましょう。
どんな小さな悩みも、歓迎しています。
※ あなたの身近な臨床心理士
この記事は、以下の学術研究・文献をもとに執筆しています。一般読者向けに平易な表現で解説していますが、内容の根拠となる原典を明示します。
- Roberts, B. W., Luo, J., Briley, D. A., Chow, P. I., Su, R., & Hill, P. L. (2017). A systematic review of personality trait change through intervention. Psychological Bulletin, 143(2), 117–141. ※ 207件の介入研究をメタ分析。心理療法により神経症傾向が低下し外向性が上昇することを示した。本記事「エビデンス」節の主要根拠。
- Bleidorn, W., Hopwood, C. J., & Lucas, R. E. (2018). Life events and personality trait change. Journal of Personality, 86(1), 83–96. ※ 重要なライフイベント(心理療法含む)がパーソナリティ変化に与える影響を論じた研究。
- Hengartner, M. P., & Yamanaka-Altenstein, M. (2020). Personality traits and psychopathology over the course of six months of outpatient psychotherapy: A prospective observational study. Frontiers in Psychiatry, 11, 57. ※ 外来心理療法6ヶ月間における神経症傾向・外向性・開放性の変化を追跡した前向き研究。
- Stieger, M., Flückiger, C., Rüegger, D., Kowatsch, T., Roberts, B. W., & Allemand, M. (2021). Changing personality traits with the help of a digital personality change intervention. Proceedings of the National Academy of Sciences, 118(8), e2017548118. ※ 介入によって望む方向にパーソナリティが変化できることを示した研究。療法の種類より「変えたい」という意志の重要性を示唆。
- Bucher, M. A., Suzuki, T., & Samuel, D. B. (2019). A meta-analytic review of personality traits and their relations to mental health treatment outcomes. Clinical Psychology Review, 69, 130–142. ※ 99件の研究をメタ分析。ベースラインのパーソナリティが治療成果を予測することを示した。
- Lieberman, M. D., Eisenberger, N. I., Crockett, M. J., Tom, S. M., Pfeifer, J. H., & Way, B. M. (2007). Putting feelings into words: Affect labeling disrupts amygdala activity in response to affective stimuli. Psychological Science, 18(5), 421–428. ※ 感情に言葉をつける(affect labeling)ことで扁桃体の活動が低下することをfMRIで示した。本記事「神経科学」節の根拠。UCLA・Lieberman研究室。
- Moreno, J. L. (1953). Who Shall Survive? Foundations of Sociometry, Group Psychotherapy and Sociodrama (2nd ed.). Beacon House. ※ サイコドラマの創始者Morenoによる基本文献。「役割のレパートリー」の概念の出典。
- Kellermann, P. F. (1992). Focus on Psychodrama: The Therapeutic Aspects of Psychodrama. Jessica Kingsley Publishers. ※ サイコドラマの治療的側面を体系的に論じた文献。洞察と行動変容の関係を整理している。
※ 本記事で紹介した「具体例(AさんBさん)」は、実際のクライエントの情報を含むものではなく、臨床場面でよく見られるパターンをもとに構成した説明用の例示です。