ビジョントレーニングで「見る力」を促進します。
1.「見る力」とは?
人間の外界からの情報取得のおおよそ80%は視覚から取り入れでいると言われています。そして、人間の行動は80%が無意識的に行われていると言われています。私たちは、「見る」ことをふだん何気なく行っていますが、日々の生活や教科学習、さまざまなスキルの習得に必要不可欠な働きです。
「見る」ことと関連深い機能として、「視力」があります。視力とは、物体の存在や形状を認識したり、細かく見分ける能力をいいます。正しく判別ができるものが小さいほど視力はよいとされるものです。しかし、「見る」こととは、視力だけで成り立っているわけではありません。私たちが「見る」時には、さまざまな機能が発揮されています。
- ボールが飛んでくるとき、飛んでくる場所をじっと凝視しまう。飛んできたボールをキャッチするためには目で追い続ける(追視)ます。また、両眼でボールを見ることで立体視が働き、距離を正確につかむことができます。
- 読書には、近い位置で本を見る力「近見視力」が必要です。さらに、文字や単語ごとに眼球を正確に動かし(衝動性&追従性眼球運動)、読み飛ばしを防ぎ、同時に、今どこを読んでいるかを把握(空間認知)しながら、文章を理解していきます。
- 黒板の文字を自分のノートに書き写す際には、黒板とノートの間を、瞬間的に視線を移動させます。黒板とノートの文字の位置を記憶して、次の文字を素早く見つけて文 字にピントを合わせる(調節)。
- 文字や図を書(描)く際には、まず、文字や図形を形として認識します(形態認知)。書き順やマスに書き込む位置を瞬時にイメージし、文字や図形を記憶し、筆を走られ るための計画を立てるといった高次の情報処理がなされます。そして、それらを実際に手の運動として出力する、目と手の協応運動がなされます。
こうした子どもたちの「見る力」の発達は、日常生活動作や遊びを通して習得していきます。しかし、当たり前に身につくものではなく、視覚に関連した機能や、運動機能などの何らかの問題によって、「見る力」につまずきが生じることがあります。そうしたつまずきが、成長と共にさまざまな困難や苦手、スキルの不足としてあらわれることがあります。
2.「見る力」を作り上げる機能…視覚認知機能
私たちは、常に目的を達成することが求められます。対象とする物を見て(入力機能)、それが何かを理解し、意味を見出したり予測を立てる(思考)。そして、カラダを動かして行動(出力機能)する。このような脳の働きは「認知機能」と呼ばれます。認知機能は、次のように三つに分けられます。
1)入力機能 → 2)情報処理機能 → 3)出力機能
1)「入力機能」
まず最初に、視覚情報を正確に素早く知覚することが必要です。ここで重要なのが、
① 両眼視、②調節、③ 眼球運動 です。
- 両眼視機能
近くのもの、遠くのものを見る時、両目を内側に寄せたり、外側に離したりします。こうすることで、ものを立体的にみることができ、そして、奥行きや目的物までの距離を把握することができます。両目を寄せることを「輻輳」、離すことを「開散」といいます。「輻輳-開散」の問題により、両目を見るべきものに正しく向けることができないと、物がふたつに見えたり、距離感が掴めない。また、眼が疲れやすいといったことが起ります。片目をつぶって物を見る子がいますが、こうしたあらわれによるものかもしれません。
(このような「見る力」の弱さがAD/HDの注意集中の困難などを助長することがあ ります。たとえば、本読み。眼球運動の弱さ、輻輳力の困難が加わることで、近くを見る作業が不正確になったりすることで、より注意集中の困難が強まることも。また、本読みを拒否するといったことにつながりやすくなります。)
- 調節機能
見ているものまでの距離に応じて眼の水晶体(レンズ)の厚さを変化させて、対象物に自動的にピント(焦点)を合わます。この調節力の問題により、読書やパソコンの画面を見ているとすぐに目が疲れたり、文字や画像がボヤけるといったことが起こりやすくなります。
- 眼球運動
眼球運動には、対象物から次の対象物に視線をすばやく正確に向ける「衝動性眼球運動」と、動いている物を視線をそらさずに正確に追う「追従性眼球運動」があります。
- 衝動性眼球運動:
見るべき物にすばやく視線を向ける。鬼ごっこで逃げ手を瞬時に探したり、ドッチボールですばやくターゲットを探す。自動販売機で目当てのジュースを探し当てる時などに必須な機能です。勉強でも、書き取り、本読みなどにも大きく関与します。
- 追従性眼球運動:
見ているものは止まっているものだけとは限りません。ダンスで先生の動きをよく見て真似したり、ペン先を見ながら点から点を線で結んだり、ボールを追いかけたり、飛んでいる虫を網で捕まえたりする時に、追従性眼球運動が必要です。
2)「視覚情報処理機能」
入力した視覚情報を分析・処理する機能です。
例えば、テーブルの上のリモコン。その輪郭である「四角形」を知覚するわけですが、その前に、テーブルとリモコンを違うものと認識する機能が必要です。ルビンの壺でお馴染みの「図と地の弁別」です。さらに、4本の辺や直角4つといった特徴が分析されて「四角形」と概念的に認知(形態認知)されます。そして、この「四角形」はどの角度から見ても、回転しようと形は変わらない(恒常性)ことを理解し、スナック菓子で一部が見えなくなっても「四角形」と認知されるわけです。こうした複雑で高次な情報処理が無意識的、自動的になされていきます。
視覚情報処理によって、先にすべきことのイメージが固まってくると、実際にカラダの運動と連動させる「出力機能」の段階に移行します。この時、カラダの各部位をどうやって、どこに動かすかを自分自身の「座標軸」に沿って分析されるわけです。この座標軸を備えるためには、前庭覚、固有受容覚、触覚などの初期感覚の発達が重要になります。そして、視覚情報処理の結果に基づいて複雑に運動したり、他の感覚を統合させる力が求められます。こうした初期感覚や感覚統合などの問題が見られる場合には、作業療法的な支援にも取り組んでいきます。
3)「出力機能」…視覚情報とカラダの動きを連動させる。
一連の視覚情報処理過程で得た情報をもとに、実際に手やカラダを動かし、イメージ通りに動作に連動させる機能です。見本通りに図形を書いたり、他者の動きを真似る。飛んでくるボールの位置を予測してすばやく移動することが出力機能です。
ここでは、見る力だけでなく、原始反射の残存や筋肉発達、カラダを大きく動かす粗大運動や手先を器用に動かす微細運動など、運動機能との連携が非常に重要になります。そのため、ビジョントレーニングでは運動機能に焦点を当てたトレーニングも取り入れていきます。
自閉スペクトラム症やADHD、LDといった発達障害は、中枢神経系の機能不全、脳機能間の連携の不全などにより、認知機能の偏りや柔軟性などの問題が生じやすくなります。こうした子どもさんの中には、「見る力」の弱さを抱えた子も多いです。たとえば、探し物をしている時、眼球運動の弱さや、形態や空間の認識の苦手さから、正確な情報の収集や分析に失敗してしまい、なかなか探し物が見つからないといったことも起こりやすいでしょう。こうしたことの繰り返しは、自尊感情にも影響するものです。見る力の弱さがある際には、ビジョントレーニングなど視覚発達支援を充実させていきたいものです。
目とカラダの発達教室cont-eでは、こうした「見る力」に必要な機能の促進を目指したトレーニングを実施していきます。子どもさんの課題に、視機能や視覚認知の発達のアセスメントを通じてそれぞれのプログラムを作成・実践していきます。しかし、子どもは遊びの天才であり、遊びこそが子どもの発達の支えであることも忘れません。遊びの中に課題に応じたトレーニング要素を織り交ぜ、仲間と協力しながら楽しくトレーニングをしていきます。「見る力」についてのご心配は、お気軽に当教室にご相談ください。
【参考書籍】
発達障害の子どもの視知覚認識問題への対処法 リサAカーツ著 川端秀仁監修
教室・家庭でできる見る力 サポート&トレーニング 奥村智人著 中央法規
学習につまずく子どもの見る力―視力がよいのに見る力が弱い原因とその支援 奥村智人・若宮英司 編著 玉井浩監修 明治図書
発達が気になる子の子育て支援情報誌No.7 学ぶために必要な「見る力」のお話 簗田明教著 全国心身障害児福祉財団 発行