子育てのストレスと、親子で育む安心の力
お母さんたちは、毎日一生懸命に子育てと向き合っています。その姿には、言葉では言い表せないほどの愛情と責任感が宿っています。けれども、完璧であろうとするあまり、周囲の期待や情報に押しつぶされそうになることもあるでしょう。「ちゃんとできていないのでは」「この子を育てる力がないのでは」と、自分を責めてしまう夜もあるかもしれません。
実は、そうした慢性的なストレスや不安は、母親自身の心身を疲れさせるだけでなく、知らず知らずのうちに子どもにも影響を及ぼすことがあるのです。
このような状態は、近年「トキシックストレス(Toxic Stress)」と呼ばれています。
トキシックストレスとは、強くて持続的なストレスが、安心できる人間関係や適切なサポートなしに加わることで、心身に悪影響を及ぼす状態を指します。特に幼い子どもは、大人と比べて自己調整力が未熟なため、家庭内の緊張感や不安定さを敏感に感じ取り、それが脳の発達や感情の安定に深く影響することがあります。
特に、母親や養育者との愛着関係は、子どもの右脳の発達に強く関わることが神経科学の研究からわかってきました。
アメリカの神経心理学者アラン・ショア博士は、0〜3歳の時期における親との相互作用が、子どもの右脳にある「感情調整」や「ストレス耐性」をつかさどる神経ネットワークを形づくると提唱しています。右脳は非言語的な情緒交流や共感、直感的な安全感の獲得に深く関わっており、母親のまなざしや声のトーン、抱きしめる温もりなど、繊細な関わりが「安心の土台」として神経系に刻まれていくのです。
つまり、親子の関係そのものが、子どもが自分を落ち着かせる力、他者とつながる力、そして困難を乗り越える力を育む「神経的な環境」でもあるということです。
私自身、幼少期に親に非常に大変な思いをさせてしまった人間です。
小さな頃の自分のこだわりや不安定な行動で、親を困らせたことも少なくなかったと思います。そして、歳を重ねてから、そのことを思い出しては、非常に強い罪悪感を抱くようになりました。
でも、今になって思うのです。親もまた、悩みながら、不安を抱えながら、精一杯生きていたのだと。
だからこそ、声を大にして伝えたいことがあります。
トキシックストレスを回避するいちばんの鍵は、「お母さん自身のケア」です。
母親が自分の心の疲れに気づき、「助けて」と言えること。少しでも誰かに話し、頼れる環境を持つこと。それは、わが子に「大丈夫だよ」「安心していいんだよ」というメッセージを伝える、何よりも大切な土台になります。
そしてもう一つ――
あなたとお子さんとの日々のふれあいは、右脳と心を育てる、かけがえのない営みです。
完璧でなくても、疲れていても、まなざしを交わし、寄り添う時間の中にこそ、子どもの心は育まれていきます。
子どもを守るためには、まず親が守られる必要がある。
このシンプルな事実が、もっと当たり前に語られる社会になりますように。